国道337号を当別町へ向かい、石狩川に架かる札幌大橋の手前を左折。堤防の上を進むと左手に馬たちが走り回る姿が見えてくる。ここが大城さん夫妻が営んでいる野外騎乗専門の乗馬クラブ「石狩ホーストレック」だ。もともと馬が大好きで、それが高じて北海道を目指したのかと思いきや、馬との出会いは、意外なことに移住後だという。しかも以前は犬を触ることもできず、ペットといえば幼少期に文鳥を飼ったことしか無かったというから驚きだ。であればなぜ移住をときっかけを尋ねると、それはスキーだった。共通の趣味であるスキーを満喫するため、毎年北海道へ足を運んでいたが、お互いに仕事を持っていたため、そろって休めるのは年末年始。春頃から宿を探して、チケットを手配していたものの、費用は高上がりだし、帰省時期とぶつかるため、毎回苦労をしたという。「スキーは楽しみなんですけど、手配をするのが大変でした。そんな時に、ニセコのゴンドラでたまたま乗り合わせた年配のご夫婦が移住してきたというのを聞いて。そういう手もあるなと思ったんです」と夏記さん。
長野県の木曽で生まれた夏記さんは、もともと田舎でののどかな暮らしに憧れており、学生時代には道内各地を旅したこともあったので、北海道への移住をイメージしやすかったそう。康子さんは横浜市で生まれ育ったが、心置きなくスキーができるならと、同じ横浜市に暮らす両親も一緒に移住することを決心した。散歩することが好きな父親と庭仕事が好きな母親ならきっと北海道での暮らしを楽しんでくれるだろうと思ったのと、費用面でも横浜市で二世帯住宅を考えるより移住する方が現実的だった。
「元旦にゴンドラで移住の話を聞いて、3月に横浜のハウジングセンターに出かけて、当別町のスウェーデンヒルズを知ったんです。それまで雪の北海道しか見ていなかったので、美しい街並みを一目で気に入りました。そこからはもう勢いづいて、現地を見に行き、それぞれの仕事に区切りをつけて。タイミングよく横浜のマンションも売り先が決まったこととスウェーデンヒルズにちょうど建売の物件があったことで、7月には移ることができたんです」と康子さん。「札幌に近いということも移住の決め手となりました。仕事もなんとか見つけられるんじゃないかと。当時は今ほど移住促進事業が進んでいませんでしたからね。住む場所の風景の中に街が見えることが安心感につながりました」と夏記さんが続けた。
—馬たちと暮らす、楽しい人生。
スウェーデンヒルズには道外からの移住者が多く、町内会のサポートも手厚いそう。「当時の町内会長さんには本当によく面倒を見てもらい、感謝しています。移住の先輩もいて、とても心強かったですね。今では別の町内の方や農家の方々とも交流を深めています。姉妹都市提携が結ばれているスウェーデンにちなんだいろいろな行事や文化交流活動もあって、楽しく過ごしていました」と康子さん。
そして、縁あってパートの仕事を紹介してもらった先で、乗馬を趣味に持つ上司と出会ったことから馬への興味が生まれたという。もっと馬に触れたい、慣れたいと言う康子さんに、上司は我流ではなくちゃんと乗馬を始められるようにと石狩ホーストレックの創業者を紹介してくれた。
馬が好きで本業とは別に牧場を始めたという創業者にも影響されて、康子さんはどんどん乗馬にのめり込んでいった。トレッキングのガイドを手伝いながら乗馬のスキルを磨き、馬の扱い方、育て方を学んだ。その後、後継者がいなかった牧場を譲り受け、今に至る。
「春夏秋冬、花や緑、川面のきらめき、雪景色と四季折々の自然を味わいながら、この広い草原を馬に乗って走るのは最高に楽しいです。道外から来るお客様が多いんですが、向こうには乗馬クラブはたくさんあっても、こういう環境で長距離を乗れるところはなかなか無いですから。道内ではまだまだ料金も敷居も高いと思われているようですが、せっかく近くにこういう環境があるんですから、ぜひ体験していただきたいですね」と康子さん。二人共に「北海道アウトドア トレイルライディング認定ガイド」の資格を持ち、夏季にはたくさんのお客様をお迎えするそう。
「こういう生活ができたのもすべては人と人とのつながり、“縁”のおかげですよね。そしてタイミング。その時に動くかどうかで決まります」と夏記さん。馬たちは皆で一つの放牧場に暮らし、草を食べたり、走ったり、のびのびと過ごしているそう。とても人懐こく、優しい目をしてこちらを見つめてきた。何のてらいもなく、率直に幸せだと話す大城さん夫妻の瞳も、馬たちのようにきらきらと輝き、日々の楽しさを謳歌しているオーラに包まれているのが感じられた。