先ごろ、2014年度の札幌市における犬の殺処分数がゼロになったという発表があった。これは統計を取り始めた1972年度以来初めてのことだという。しかし、過去最少とはいえ534匹もの猫が殺処分された。
これに先駆け、旭川市では2013年度から犬の殺処分ゼロが続いている。さらには野良猫を地域猫として育てる活動に道内で初めて取り組み、猫の殺処分減を住民と一体となり進めている。全国の自治体で殺処分ゼロをめざす動きが活発化している中、国内外に知られる動物園の街・旭川は、動物に優しい街づくりへ官民が手と手を取り合いながら歩み出している。
市内中心部から15kmほども離れた山間にあった管理施設を、旭川駅からほど近い、周りは官庁街という好立地に新築移転。旭川市動物愛護センター愛称「あにまある」と改称し、市民に開かれた動物との出会いの場としての活動をスタートさせたのが2012年秋。皆さんのおかげで動物愛護の活動が広がってきていると話すのは前センター所長の古市さんだ。「この場所に決まるまでは色々な場所を探すなど紆余曲折を経て解決しました。結果的には、見学者が増え年間4千人もの方々が訪れています。とにかく活動を広めないと動物の譲渡につながらないので、市民ボランティアの皆さんに協力していただきながら積極的に情報発信をしています」。
という一方で、センターで不妊手術をして地域住民が育てるという地域猫の活動を始めてはいるが、やはり持ち込まれる猫の数を減らすことは容易ではなく、いまだ殺処分を避けられない現状があるという。「とにかく、ここへ入って来なければ処分は減るんです。入る数を減らさなければ、やはり処分せざるを得ない」と古市さん。猫は野生動物ではない。食べる物に困り、温かな寝床も無く、交通事故に遭うことも多い野良猫たちは、決して自由でも幸せでもないといえる。野良猫が生まれにくい環境づくりをしなければ、処分を減らすこと、処分ゼロにはつながらないのだ。
「あにまある」が誕生してから、個人や民間団体などによる譲渡のサポートや動物愛護の普及啓発活動などが活発になっている。中でもNPO法人 動物愛護市民団体「手と手の森」は、動物病院および関連企業のCSR(社会的責任)の一環として活動しており、市の施設が新築移転される前から、さまざまな取り組みを行ってきている。小学生を対象にした動物介在教育、動物に関する仕事への就労支援にもつながる学びの場、動物愛護啓蒙イベントの開催、障がい者や高齢者施設への動物介在ふれあい活動などだ。動物病院では、保護された負傷動物の治療や不妊手術も行ってきた。そして「あにまある」から、新しい飼い主が見つかるまで犬猫を引き取る活動もしている。理事長を務める本田リエさんによると、動物を手放すのは独り暮らしの年金生活者、経済的な不安がありながらも猫の多頭飼育をしてしまった人など、人との関わりが希薄な暮らしの中で、動物の温もりを必要としているといった、社会問題的な側面もあるという。
「私自身、今までたくさんの動物たちと暮らし、さまざまな飼い主さんたちと出会ってきました。その中で感じた、動物を思う心と動物から伝えられる思い、そこにある優しい気持ち、そして温もりは世界共通のものです。この優しい気持ちをみんなが持てば、人も動物も幸せな社会になるのではないでしょうか」と話す。動物たちは私たちに無償の愛を与え続け、私たちより先にその寿命を全うする。人間のよき“友”として動物たちの命が私たちに贈ってくれたものを、手から手へ、心から心へ。動物たちを、私たちを取り巻く社会に今、優しく強い風を吹かせることが求められている。