器は日々、手に取って使うもの。だからこそ、選ぶときは“ふれる”ことが大切だ。築30年以上の古いマンションを改装し、各部屋にさまざまな作家の工房やショップが入っている「space1―15」。杉田真紀さんの工房はその一室にあり、週末には直接ふれて、購入できるギャラリーとしてオープンしている。杉田さんがOLから陶芸家に転身したのは、趣味で通っていた陶芸教室がきっかけだった。友人たちが自作の陶器を使ってくれる中で、「人に使ってもらうことの喜び」が芽生えていったと言い、働きながら札幌の陶工房「TENSTONE」で修行を積んだ。杉田さんのつくる陶器は、粉引と生成、そしてオリジナルの紺の3色。土の質感を生かすため、釉薬は薄くかけるだけに留め、色付けは化粧土で施しているのが特徴だ。さらに「手」という意味のイタリア語〈マーノ〉と名付けたように、手にしたときのフィット感に最もこだわり、仕上げの工程では手になじむまでヤスリがけを繰り返す。手間ひまをかけ、一つ完成するまでに一カ月を要するという〈マーノ〉の陶器は、展示会やイベントにも積極的に出品していて、ファンは道内に限らず、全国にも広がっている。先日公開された映画「ぶどうのなみだ」の劇中の小道具にも使用され、「パーティーシーンに使われていたのは意外でした。自分では思い付かなかったスタイリストさんのセンスは勉強になりましたし、陶器づくりの幅が広がった気がします」と話す杉田さん。とはいえ、一番の願いは「普段から使ってもらい、家にある中で手に取る回数が一番多い食器になってもらうこと」。同じアイテムでも、持つ人によってしっくりとくるものが違うようで、杉田さんにとってはギャラリーで陶器と使う人との出会いを見るのがやりがいにつながっている。普段の暮らしをちょっぴり楽しくしてくれる、シンプルで洗練された〈マーノ〉の陶器。その中には、あなたの手にもぴったりと合うものが必ずあるはずだ。