「より身近なもの、日常づかいができるものをつくりたいと思った」と、大学に入ってから木工制作の道を選んだ辻有希さん。器や盆、花器、アクセサリーなど、普段の暮らしの中でほっと心を和ませてくれる木工の魅力をかたちにしている。数多ある木工製品と比べてみると、辻さんのつくるものはどれも何かしらの特徴を持ち、表情豊かにコミュニケーションしてくる。それは動きやリズムを感じさせるようなかたちの妙であったり、本来の素材感や木目を生かしながらもアクセントになる色づかいがされていたりなどと、飾り気のないフォルムでありながら、深く考えられたであろうデザインが施されている。「作品をつくるというよりは日用品をつくることをめざしています。木が本来持つ魅力に、暮らしに少しの驚きや彩りを与えられるようなデザインをプラスして、工芸とデザインの間にあるようなものづくりをしていきたい」と話す。こうしてつくられる器や道具は、道外の展示会でも好評を得ており、北海道の木を使っているというとさらにうれしい反応をもらえるという。ここ数年は器や道具を中心に制作しており、ブローチなどのアクセサリーもつくり始めた。木をもっといろいろなかたちでライフスタイルに取り入れてもらいたいとの思いからだ。木は自然の素材ゆえ、器や道具になっても呼吸を続けている。長く使うことで、その色みや風合いが変化していき、それを楽しみながら付き合っていける。使えば使うほど、愛着が湧く素材だということを広く伝えていきたいと言う。また限りある資源であるため、木々との一期一会の出会いを大事にしながら制作していきたいとも。好きな木材はと尋ねると、サクラという答え。木目が美しく、彫り目もきれいで、つくっている時にサクラの香りがするそうだ。北国では誰もが特別な思いを抱いているであろうサクラの木。その木でつくった器や花器を日常の生活に取り入れれば、長い冬の間、使う度目にする度に待ち遠しい春が身近に感じられるはずだ。